かたち | Form

刻々と変化する空模様や季節の移ろい、いつ眺めても本質は変わることのない心落ち着く景色、日常に寄り添う現象や風景を質量を伴った実体として作り、それらを展示空間の中に配置することで豊かさの一つとして提案をすることを目標に制作を行っています。
日頃の思考や、集積した知識、実際の制作に必要な技術、蓄積した作品等を分析し、かたちと空間を豊かにする要素について考えました。
輪郭 異なる面同士をなめらかに組み合わせて一つのかたちとして形成します。あらゆる角度から観察して輪郭が美しく空間に馴染むように考えています。
稜線 平面と曲面の組み合わせや、曲率の異なる曲面の組み合わせにより稜線が生じます。上から見たときに円に見えるものが横から見ると半円のように見えるなど、鑑賞者と稜線の関係によってかたちに対する認識が変化します。
素材 作品は主剤と硬化剤を混ぜ合わせることで熱反応により硬化する2液性の透明なエポキシレジンを主材料として制作をしています。手仕事の精度や気温、湿度といった環境変化により、制御することのできない濁りや歪み、ゆらぎといった状態が生まれることを肯定し、日々変化するような自然現象に近い状態を目指しています。
仕上げ 透明な素材を用いることで、キャストしたままだと半透明で、磨いたりかけ流しを行うことで透明度を変化させることが出来ます。仕上げごとに透過や反射、拡散といった光学効果の差異が生じ、かたちの見え方や周囲の環境へ多様な影響を与えます。
重さ エポキシの比重は1.1g/cm3から1.4g/cm3で水よりも少し大きいです。密実なもの、内部に空隙のあるもの、包み込むようなものなど様々な形状をつくり、また上記のように仕上げも様々にすることで体積や表面積、見え方と実際の重量がちぐはぐになって、空に浮かぶ雲のように重さと存在感が一致しない状態を目指しています。
境界 厚みのあるエポキシをキャストする際、反応熱をすぎると黄変してしまうため、複数回に分けています。その際に生まれる微妙な素材の差や、あるいは意図的に着色することで視点によって積層の境界を見ることが出来ます。また、透明で厚みや量感のある形状とすることでかたちの表面を見ているのか、内部のエポキシを見ているのか、裏側の面を見ているのか、或いはその先の風景を見ているのか、一つの場所を見ていても様々な場所に焦点がいって景色を眺めるような体験を目指しています。
組み合わせ 上記のような複数の要素を一つのかたちにまとめることを考えています。鑑賞者とかたちとの距離や捉え方によって対象の印象やスケールが変化することを狙いにしています。
建築 本展は元々民家として扱われていた建物を、建築家の田村直己氏が自身の手で設計改修を行い設計事務所として使用している空間を会場としています。 街に開き、内部空間を明るくするために路地のある北側に大きな窓を設け、間仕切りや内装仕上げを取り払うことで空間の気積を大きく確保し、吹き抜けをつくることで開放的な空間としています。田村氏の一つ一つの空間に対する感覚に共感し展示空間として使用することをお願いしました。東側と南側は建物が隣接しているため、通風のための窓はあるものの光は全く差し込まない状態であったため、本展を開催するにあたり一階のガラスを白く塗り、建築空間のかたちを明快にしています。
空間 本展では演出のための照明を使用せず自然光で展示を行います。訪れた日時の天気や環境の変化を展示に取り込むことで建築空間と制作したかたちの持つ一つ一つの要素の関係について考えることで一つのまとまりとして、展示空間全体を作品化することを目指しています。
かたちという単純かつありふれたテーマの展示を開かれた建築の中で開催することで、日頃の活動で培った感性や価値観を少しでも街や社会に還元することを目指しました。本展において試行した成果の一端を、鑑賞者や関係者の皆様にお伝えしそれぞれの豊かさについて考えるきっかけとなることを願います。
佐藤敦